ブロードウェイ・ミュージカル『ウェスト・サイド・ストー
photo: Jun Wajda

ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』
50周年記念ツアー  オーディションが行われました!

ロビンスのつかみテク

(取材・文=中島薫)

『ウエスト・サイド・ストーリー』(以下『WSS』)を観るたびに、私が感心する事が一つある。 それは、つかみの上手さだ。つまり、冒頭の“プロローグ”のダンスを観ただけで、人種の異なる ジェット団とシャーク団が対立し、憎悪の念を募らせている事が、一発で分かる仕掛けになっている のだ。「これから始まるお話は、人種間の軋轢がテーマですよ」と、最初に踊りで丁寧に説明してい るわけです。この作品を生み出したのは、もちろんジェローム・ロビンス(原案・振付・演出)。 〈モダン・ダンスの鬼才〉と謳われた彼だが、観客へのサービスを決して怠らなかったからエラい。

今回来日するのは、初演(1957年)より50周年を記念して編成されたワールドツアー・カンパニー。 2007年にウィーンでオープンし、その後パリのシャトレ座や、 ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で上演され、絶賛を浴びた。 演出と振付は、ジョーイ・マクニーリー。ロビンス直々にダンスを伝授された最後の世代で、 2000年から『WSS』の演出・振付を手掛けている。 ちなみに、現在ブロードウェイで大ヒットを記録している、再演版の振付も彼が担当。 いかに信頼が厚いかが分かろう。

実はロビンスは生前に、「再演の際も、私の振付は一切変えるべからず」とお達しを出していた(彼は1998年没)。 マクニーリーは、オリジナルを寸分違わずに再現するわけだが、これは至難の技。 元々、振付自体が複雑なため、高度のテクニックを要求されるのはもちろん、 ただ正確に踊るだけでは駄目なのだ。 一番大切なのは、踊っている時も、決して演じているキャラクターを忘れない事。 ドラマをダンスで表現する能力が備わっていなければ、ロビンスの振付はこなせない。 なかなかどうして奥深い踊りなのであります。

「ゾンビになるな!」

私は、今年の2月にNYで行われた、オーディションを見ることができた。 前述のように、難易度大のダンスゆえ、長いツアーの間にキャストはケガ人オンパレード。 そのためマクニーリーは、頻繁にパフォーマーを入れ替えているのだ。 当日は、極寒の天候にもかかわらず、スタジオ内は若いダンサーたちの熱気でむせ返るほど。 この不朽の名作に、何としても出演したいという意気込みが伝わってきた。

まずマクニーリーが、約20名のダンサー全員で踊らせたのが“クール”。 シャーク団との対決を前に意気軒昂のジェット団が、 爆発しそうな興奮を抑えながら歌い踊るナンバーだ。 その凝りに凝った振付は、本作で最もこなすのがキツいと言われるのも納得だった。 よろけたり、ステップを間違う者が続出なのだ。 マクニーリーは、微妙な腕の上げ下げにまで細かく指示を出しながら、 「ゾンビになるな!」とゲキを飛ばす。 つまり、ただ動くだけの物体にならないで、ジェット団が何を考え、どのような感情で踊るのか。 そのモチベーションを忘れるなという事。いやあ、ダンサーは実にハードな職業であります。 一曲踊り終わると、さすがに皆さん息が上がっていた。

よりリアルに、よりドラマチックに

次にマクニーリーは、彼らをグループに分けて再び踊らせ、候補者を絞り込んでいく。 この作品に関わって早や9年。オーディションで采配を振る彼は、すっかり自信がみなぎり、貫禄さえ感じさせた。 私は、オーディション後にインタビューする機会を得たが、興味深い話をいろいろ聞かせてくれた。 彼が、ブロードウェイで現在上演中の、再演版の振付を手掛けた事は、前述の通り。 この公演の演出が、アーサー・ローレンツ。『WSS』の脚本家なのだ(今年91歳!)。 伝説の巨匠との仕事から、得た物は多かったとマクニーリーは語る。

「彼は最初に、登場人物の感情の動きを、キャストに丁寧に説明するんだ。 それから、後の役作りは彼らに任せてしまう。 演じるキャラクターが自分の物になるまで、辛抱強く待つわけだ。時にアドバイスを与えながらね。 このやり方だと、演技にリアリティーが増す事が分かった。演出家に押し付けられるのではなく、 自らが掘り下げた芝居だからね。 アーサーとの仕事は、演出をやる上で本当に勉強になったよ。 『WSS』のキャストは、年齢層が低い。 ダンスは、子供の頃からレッスンを積んでいるけれど、演技は経験の浅い人が多いんだ。 僕は、彼らのパーソナリティーを引き出して、その中のエッセンスが、演じる役柄に合うように導いていければと思っている」

『WSS』と言えばソング&ダンス。 しかし、〈感情が高まって、歌、踊りへと発展する〉というミュージカルの基本は、 まず演技ができなければ成立しない。 ローレンツとの仕事を経て、マクニーリーはこれを再確認したようだ。 よりリアルなダンスに、よりドラマチックな歌唱。 今回の来日版は、以前にも増して、ミュージカルの醍醐味を体感できる大充実の公演になりそうだ。

"WEST SIDE STORY is presented through special arrangement with Music Theatre International (MTI), 421 West 54th Street, New York, New York 10019 - tel.: (212) 541-4684, www.mtishows.com"